2. 模型店別車輌発売状況

2-8 つぼみ堂模型店・トビー模型店


1.つぼみ堂模型店
つぼみ堂模型店 クハ86

つぼみ堂模型店 EF60

 1950年代からカワイモデル・鉄道模型社と共に、つぼみ堂模型店は日本型の16番模型の製品を積極的に発売していました。同社のモデルは、ディテールはあっさりしていたものの基本的な設計が良かったのかスケール感や模型としてのセンスが良く、筆者も同社製品を永く愛用していました。前述のとおり筆者がこの16番の世界に入ったのは、1959年(昭和34年)に大井町の阪急百貨店の模型売り場で、初めて同社製の80系電車を目の当たりにしてその魅力にとりつかれ、2時間粘って祖母に買ってもらったのが始まりでした。
 同社は1955年(昭和30年)には当時の貨物用最強力電機EH10を真鍮プレス半田付け組立により製品化、その後箱物製品を主に1950年代には真鍮プレス加工により70系(300番代)、80系(300番代)、72系、101系電車を相次いで発売、さらにブリキ(時代を感じさせますね)のプレスにより43系、61系客車や数種類の貨車を製品化していました。何故か電車製品の床板はカワイ同様木製でしたが、客車の床板は車体同様ブリキ製でした。1960年代に入るとカワイや模型社ほど多くの新製品の発売はありませんでしたが、1961年(昭和36年)にはED11、1964年(昭和39年)にED17の22号機、1965年(昭和40年)にはEF60の4次型と、国内では初めてのナローゲージの製品化と思われる木曾森林鉄道のボールドウィン製蒸機を16.5mmと10.5mmゲージで製品化しました。更に1966年(昭和41年)に木曾森林の運材車や客車を発売、1967年(昭和42年)には初期の気動車キハニ5000と玄人好みの形式を製品化、そして1968年(昭和43年)には当時の花形機関車であったEF65を発売しました。上記のようにつぼみは人気のある形式とマニアックな形式の双方を発売しており、同社の社風が表れているように思います。その後もカワイや模型社とは異なり、同社製品は1970年代に入っても時代と共に品質を向上させた新製品の発売を続けていました。
 いずれにしても同社の製品は所謂普及製品で、特に初期製品ではディテールも最低限度のものしかついていませんでしたが、模型としてのセンスの良い設計と丁寧な組み立て、入手しやすい価格で多くのモデラーのレイアウトを快走していました。

1. 機関車
 前述のとおり機関車の発売形式は多くはないものの、スケールも良好で好感の持てるモデルを発売していましたが、結局同社は国鉄型の蒸機の発売はしないままに終わりました。

ED11
つぼみ堂模型店 ED11(S.N所蔵)
  発売年:1961年(昭和36年)
  販売価格:
  未塗装キット: \2,400
  塗装済キット: \2,640
  塗装済完成品: \3,500

 つぼみは1955年(昭和30年)にEH10を発売以来久方ぶりに、旧型輸入電機であるED11を1961年(昭和36年)に製品化しました。発売当時でもED11はややマニアックな古典電機であり、一般受けする花形電機ではないところが同社らしいところです。製品は真鍮プレス製で美しくリベットも表現し、細くできた窓枠やベンチレーターの波板は別貼りとして立体感を高めています。パンタグラフは当時の他社製品と同様の水準ではありましたが未だ満足できるものではなく、碍子はいささか大きいようです。当時としては珍しくカプラーポケットをドロップ製としていました。
 台車は美しく打ち出されたドロップ製で、初期の動輪はスポークを凹凸で表現するのみでスポークの間が抜けていないドロップ製でしたが、後の製品ではスポーク車輪となりました。伝動は一個の縦型モーターから13対1のウォームギア、インサイドギアにより1台車2軸を廻しています。
 つぼみのED11は写真でご覧のとおり当時の電機としては他の同社製品同様スケールがよくすっきりとした仕上がりが魅力で、また小レイアウトでも小カーブを曲がれるため多くのファンに歓迎されました。

EF60 4次型
つぼみ堂模型店 EF60 4次型
  発売年:1965年(昭和40年)
  販売価格:
  塗装済キット: 上廻り−\3,600(特急色・茶色共)
           下廻り−\2,490
  塗装済完成品: \7,920

 1960年代に入ると鉄道模型社やカツミ模型店から多くの新型電機が発売されましたが、つぼみも1965年(昭和40年)、当時20系客車の牽引機として活躍していたEF60の4次型を発売しました。その前年にはカツミが同じくEF60の販売を開始しましたが、つぼみは車体形態の異なる4次型として独自性を打ち出しています。
 上廻りは乗務員室扉も一体でプレスした真鍮製で、側面のベンチレーターはエッチングした板を別貼りしています。前面もHゴムまでプレスで表現した良品で、側面と半田によりがっちり組み立てられています。屋根上にはパンタグラフのベース部分にリベットを表現した真鍮板が貼ってあり、精密感を盛り上げています。2枚貼り合わせにした歩み板を取り付け、避雷器や発煙筒、高圧線引込線がつき、以前の同社製品に比べてディテール豊かになりました。モニター部分も真鍮板の組み合わせによりすっきりと実感的に表現されています。乗務員室扉脇の手すりや、乗務員室横の屋根上に上るためのステップも真鍮線により的確に表現されていました。
 下廻りはドロップにより表現し黒メッキした台車枠を使用していましたが、揺れ枕バネ部分も一体で表現したため、別貼りにしたカツミ製に比べ立体感は劣りました。やはりドロップで打ち出したブレーキシューと引き棒を別貼りとして足廻りを引き締めています。動輪の輪心は真鍮鋳物で実物同様の丸穴が表現されています。動力は当時一般化してきた2個モーター方式とし、4個に分けた十分なウェイトを載せ牽引力は強力になりましたが、ウォーム・インサイドギアでの伝動は引き継がれています。中間台車には鉛のウェイトを実物のモーターを模った形態とし、ファンの心をくすぐりました。
 つぼみのEF60はスケール感や模型としてのセンスもよく、当鉄道でも永く活躍しました。塗装は写真の一般的な青色の他、茶色、特急用塗装があったようです。

EF65 500番台
つぼみ堂模型店 EF65 500番台(H.T所蔵)
  発売年:1968年(昭和43年)
  販売価格:
  未塗装キット: \7,100
  塗装済キット: \7,850
  塗装済完成品: \9,500

 EF60の4次型を製品化していたつぼみは1968年(昭和43年)、当然のように形態の酷似したEF65を発売しました。基本的な設計・構造はEF60と同じですが、変更部分としてはモニター部の形状、円筒形の避雷器の設置や前面に空気取り入れ口をプレスで表現したこと、EF60にあったスカートの空気取入れ口が無くなったことでした。当時の特急用20系客車の牽引機として人気を集めました。

2. 電車・気動車
 つぼみは電車製品としては、1950年代から当時の花形電車であった80系・70系・72系・101系電車を製品化し、101系を除きカワイモデルと競合していましたが、つぼみの車輌群は全て全金属のノーシル・ノーヘッダー車を模型化していたため、その意味では市場で唯一の製品群でした。車体は客室扉等も一体にプレス加工した真鍮板で、やはりプレス加工した前面や妻板と半田付けで組立てられています。 実物にシル・ヘッダーがないのに加え、所謂普及品でディテールも最低限の手すり等しかついていないため極めてさっぱりした印象でしたが、スケール感や模型としてのセンスが良いのか、いったん走り出すと実感的に見えたのがつぼみの製品でした。多少のディテールよりはスケールや、ちょっとしたRのとり方などが模型化する上で如何に大切か教えてくれます。残念ながらつぼみは1960年代に入ると編成物の模型は製品化されず、唯一電車・気動車模型として発売したのは極めて特殊なごく初期の気動車であるキハニ5000でした。

80系 (300番代)
つぼみ堂模型店 クハ86

つぼみ堂模型店 モハ80

つぼみ堂模型店 サハ87

つぼみ堂模型店 サロ85
  発売年:1950年代後半
  販売価格(塗装済完成品):1959年の購入時価格
  クハ86:\1,200
    モハ80:\1,800
  サハ87:不明
  サロ85:不明

 つぼみは、1957年(昭和32年)に登場した80系電車の全金属車300番代を、実物登場後いち早く製品化し、その近代的な外観をすっきりと模型化しました。前述のように全て真鍮プレス加工による半田付け組立で、客用扉や窓枠・Hゴムも一体でプレス表現していますが、乗務員室扉と雨樋のみ別貼りです。特筆したいのは所謂「湘南顔」の前面部のプレスで、スケールやプレスが良いのか、ディテールが殆ど付いていないにも拘わらず実物の印象を良く表現していたことです。前照灯も尾灯も豆粒球で点灯し、セレンで前後進を切り替えています。半田付けも丁寧で組立も良く、手荒な扱いにも耐える丈夫な車体でした。床板は未だ木製で、床下器具は真鍮挽物とソフトメタルで作られています。台車は比較的良好なドロップ製で、車輪はメッキされていない真鍮製です。塗装は緑色の部分が実物よりも明るく、また屋根も明るい青味がかった軽快な印象で近代的な車輌をよく表現していました。
 動力はモハに、当時の定石であった一個の縦型モーターからウォームギアを通じてインサイドギアに伝動しています。オリジナルの連結器は勿論ベーカー型でカプラーポケットにビス止めされていました。
 写真のモデルは塗替え並び13mm化した以外はほぼオリジナルのままです。1959年(昭和34年)の購入以来当鉄道の主力車輌として長年活躍し、50年近くを経た現在でもその姿をとどめています。

キハニ5000
つぼみ堂模型店 キハニ5000(T.M所蔵)
  発売年:1967年(昭和42年)
  販売価格:
  未塗装キット: \2,850

 1967年(昭和42年)、つぼみは日本で最初の内燃気動車(ガソリンカー)であるキハニ5000を製品化しました。この気動車は2軸の小型車であるにも拘らずリベットが並び、製品化には見るからに手間の掛かりそうな車輌です。前面や側板はエッチングでリベットを表現した真鍮版をプレス加工し、シル・ヘッダーはやはりエッチングでリベット表現した帯板を半田付けしています。窓枠や扉は別貼りとなっており、屋根はプレスで絞ったものを半田で組み立てています。 屋根両端部のラジエターとタイフォンはロストワックス製ですがガーランド型のベンチレーターは真鍮プレス部品のままです。その他パイピングや手すり屋根の水切りなどディテール豊かに製作されており、実物の古典車輌のごつごつした特徴を良くつかんでいました。軸箱や重ねバネはドロップ製で、簡単ながらブレーキシューも別部品を取り付け、足廻りを引き締めています。床下器具はエンジンと電池箱等がソフトメタル製で空気タンクは挽物です。動力は縦型モーターからウォームギアから1軸に伝動しています。 いずれにしてもマニアックな形式であまり一般向けの製品ではありませんでしたが、このような形式を選んだのは如何にもつぼみらしいところです。

3. 客車
 つぼみは電車製品群と同様1950年代から当時鉄道輸送の主力であった所謂旧型客車群を製品化しています。これらの客車は、殆んどディテールはありませんが、当時は製品も少なくまた比較的スケールも良かったので多くの鉄道で活躍しました。しかしながら電車製品と同様に1960年代に入ると新規の製品化はなくなりました。
  発売年:1950年代後半
  販売価格:(1961年(昭和36年)科学教材社発行のカタログによる)
  塗装済ボディ: \350
  完成品   : \700
  発売形式:スハ43・スハ44・スハフ42・スハフ43・オハ61・オハフ61・オハユニ61・スハニ35・スロ53・スロ51

つぼみ堂模型店 スハ43

つぼみ堂模型店 スハフ42

つぼみ堂模型店 オハフ61

つぼみ堂模型店 オハユニ61
つぼみ堂模型店 スロ53

つぼみ堂模型店 スロ51
 これらの製品は同社の貨車製品同様ブリキのプレス加工で車体や床板が作られており、半田で組み立てられています。客室とデッキとの境の板も取り付けられていました。シル・ヘッダーや雨樋はやはりブリキ帯板の半田付けで、ガーランドベンチレーターも簡単なプレス加工したものが取付けられています。客室扉もブリキのプレス製のため甘い表現となっています。全ての形式にわたり屋根の中央部に車体長手方向の帯状の「くぼみ」があったのはブリキをプレスする際の固有の事情でしょうか?手すり等は全て省略され、電車製品同様普及製品ではありますが、スケールは他社製品に比べ良好なため、ウェザリングを施して走らせると結構実感的に見えたものでした。塗装済ボディと完成品が販売されており、写真の製品は塗装済ボディにカワイで販売していた床下器具や台車を装着したものです。1964年(昭和39年)に天賞堂から軽量客車シリーズが発売された後も、1969年(昭和44年)にピノチオが発売開始したバラキット以外は後年までスケールやディテール面で満足のできる旧型客車が発売されなかったこともあり、当鉄道では長い間主力として活躍し続けました。

4. 軽便車輌

つぼみ堂模型店 ボールドウィン製木曾森林鉄道蒸機
ボールドウィン製木曾森林鉄道蒸機
  発売年:1965年(昭和40年)
  販売価格:
  未塗装キット:\1,760(16.5mm)
          \1,785(10.5mm)
  塗装済完成品:\2,700(16.5mm)
          \2,730(10.5mm)

 1965年(昭和40年)、つぼみはおそらく国内初と思われる軽便車輌模型として、有名なボールドウィン社製の木曾森林B1タンク機関車をほぼ1/80スケールで製品化しました。モーターの収納のため他の部分に比べて大きなキャブは、エッチングによりリベットなどを表現した真鍮板を半田で組立、ボイラー部は真鍮板を丸めボイラーバンドの帯板を半田付け、煙室前面はドロップ製で米国製蒸機の特徴を良く現しています。煙突やドーム・前照灯は挽物で表現し、煙突後方の発電機はロストワックス製です。
 この模型の特徴は何といっても16.5mmと10.5mmの2軌間で模型化したことでしょう。実物は2フィート6インチ・762mmですから1/80だと正確には9.5mmくらいになりますが、米国での主流で当時すでにナロー用フレキシブルレールも発売されていた10.5mmゲージを採用しています。スケールより小型の直径8.5mmの動輪の輪心は初期の製品ではベークライト製でスポークは表現されていませんでした。動力はキャブ内の縦型モーターからウォーム・スパーギアを通して、第2動輪に伝動し、第1動輪には一人前にロッドで伝動しています。ボイラー内には小さいウェイトが入っていますが、大きなモーターのためどうしてもテイルヘビーになりがちで、重心は第2動輪よりもさらに後ろにありました。
 いずれにしてもナロー車輌が製品化されたことは、日本の模型界の幅が広がってきた証左でもあり、とくにモーターの大きさからスケール的にはかなり無理があったものの、この製品は多くのナローファンのみならず一般のファンにも歓迎されました。写真のモデルは後年分売されたスポーク動輪に交換してあります。

つぼみ堂模型店 木曾森林鉄道客車・貨物車(T.M所蔵)
木曾森林鉄道運材車・客車
  発売年:1966年(昭和41年)
  販売価格:(16.5mm、10.5mmゲージ共)
  B型客車:\800
  C型客車:\440
  貨物車:\440
  運材台車:\240

 前年のボールドウィン製蒸機の発売に続き、つぼみはそれに牽かせる車輌群を発売しました。製品はエッチングにより木目や窓枠などを表現した真鍮板のプレス加工半田組立で、可愛い台車廻りは黒メッキされていました。B型客車と運材台車にはブレーキハンドルがついていました。これらの製品群によりナローゲージの楽しさに目覚めた方も多いのではないでしょうか。

2.トビー模型店

 トビー模型店は、1950年代は米国への輸出を中心にしていたようですが、日本型の16番製品は1962年(昭和37年)に古典蒸機4030型を発売したのが最初でした。この初の日本型製品は特殊なD型タンク機で一般受けのする製品ではありませんでしたが、発売当時日本型蒸機のスケールモデルと呼べる模型は1961年(昭和36年)に発売されたシュパーブのD51があるくらいで、トビーの4030の品質の高さはシュパーブ並みの製品を供給できるメーカーがあることを世に知らしめました。その後1963年(昭和38年)に初のテンダー機C50を製品化、1965年(昭和40年)には古典蒸機の6200型とそれに合う古典客車、さらにC11を発売しました。1967年(昭和42年)にはC10と8620型を立て続けにリリースし、1969年(昭和44年)には6760型を製品化しています。これらの製品は他社製品と機種が競合せず、また比較的中型・小型の機種であったため使い易く、多くの鉄道に配属されました。トビーの蒸機模型は、軸箱が非可動であることや動輪のバランスウェイトが三日月形であったことなど、モデラーとしては気になるものの自分で改造するのは簡単ではない部分でシュパーブなどの所謂高級製品に差をつけられた結果、これらよりもやや下にランクされて損をした感がありますが、その模型設計やスケールの良さ、適度なディテール、頑丈かつ丁寧な組立などかなり多くのファンに支持された製品でした。

4030型
トビー模型店 4030型(S.S.所蔵)
  発売年:1962年(昭和37年)
  販売価格:
  未塗装キット:\2,450

 前述の如くトビーは未だ市場にスケールモデルとしての蒸機がシュパーブのD51しかなかった1962年(昭和37年)、日本には数少なかった古典のD型タンク蒸機でボールドウィン製の4030型を日本型16番製品の第一弾として発売しました。
 上廻りはエッチングでリベットやボイラーバンドを繊細に表現した真鍮板のプレス加工で、ドームはプレス、煙突は挽物です。煙室前面はドロップ製で上廻り全体は半田を十分流し、しっかりと組み立てられていました。下廻りは真鍮厚板をチャンネル状に加工した主台枠を中心に、ダイキャスト製の輪心を持つ動輪が組み合わされていますが、軸箱は可動しません。残念ながら初期製品の動輪は輸出用の他形式の流用のようで三日月形のバランスウェイト付で、またブレーキシューも付いていません。クロスヘッドやロッドは洋銀のドロップ製で美しく仕上がっています。動力はキャブ内に取付けた縦型モーターからウォームギアを通じて第4動輪に伝動しています。
 この製品で16番デビューしたトビーはその品質の高さから注目されるメーカーとなり、その後の新製品を期待させることとなりました。
 写真のS.S.所蔵のモデルは改良された後期の製品で、バランスウェイトが実物どおりとなりブレーキシューも装着され、炭庫部分が重油炊きに改造されている特別な製品のようです。

C11
トビー模型店 C11(S.N所蔵)
  発売年:1965年(昭和40年)
  販売価格:
  未塗装キット:\4,950
  塗装済完成品:\6,930

 トビーは1963年(昭和38年)、初のテンダー蒸機としてC50を発売し、その名声を上げていましたが、1965年(昭和40年)には近代的なタンクロコであるC11を製品化しました。
 上廻りはエッチングでリベットや窓枠、ボイラーバンド等を表現した真鍮板をプレス加工したものですが、注目すべき点はエッチング表現ではあるものの火室部分を一段太くしたことで、シュパーブ製品でもまだ表現されていない部分でした。ドームはプレス製、煙突は挽物、煙室前面はドロップ製です。ロストワックス部品はエアコンプレッサーくらいで、他の部品は全て挽物か真鍮板の組立ですが、ディテールも適度で軽快な印象でした。前部のつかみ棒は細く実感的に仕上がっていますが、キャブの窓上部にある庇を省略したため、やや印象面で損をしたようです。C50で不満の残った一重のランボードは、この製品で二重となり実感的となりました。
 下廻りは真鍮厚板の主台枠に、三日月形のバランスウェイトをつけた動輪が装着されています。他のトビー製蒸機と同様、軸箱は可動しません。クロスヘッドやロッド類は洋銀のドロップ製で良好に表現されていましたが、シリンダーカバーはエッチングによる表現のためやや立体感に欠けています。ブレーキシューはプラスティック製です。従台車はドロップ製で美しく打ち出し、車体から絶縁されたこの従台車の2軸の従輪から集電することによりタンク機にも拘らず集電ブラシを取付けていません。動力は主台枠後部に取付けた棒型モーターから第2動輪にウォームギアで伝動しています。

8620
トビー模型店 8620(S.N所蔵)
  発売年:1967年(昭和42年)
  販売価格:
  未塗装キット:\8,350
  塗装済完成品:\9,950

 1963年(昭和38年)、C50を製品化したトビーは、1967年(昭和42年)に実物とは反対にその前身である大正の名機の8620型を発売しました。好製品であったC50よりも製品の内容は一段と向上し、C50で不満のあった一段のランボードも2枚重ねとなり、良好な設計や組立と相まって高級ファンも満足させる製品となりました。
 上廻りはボイラーバンドやリベット・窓枠等をエッチングにより表現した真鍮板をプレス加工し、半田で組み立てています。煙室前面はドロップで美しく表現し、砂箱やドームはプレス製、他の部品は挽物を中心にエアコンプレッサーはロストワックス製品を取付けています。パイピングは細い真鍮線を用いていますが、場所による太さの差がないためメリハリにやや欠けていたようです。
 下廻りは厚手の真鍮板の組立による主台枠で軸箱は可動しません。動力は主台枠後部に取付けた棒型モーターからウォームギアを介して第二動輪に伝動しており、軸箱可動ではないためギアボックスがなく、ギアは剥き出しになっています。動輪の輪心はダイキャスト製ですがバランスウェイトは実物と異なり三日月形でした。ロッドやクロスヘッドは洋銀のドロップ製で良好な仕上がりで、黒色プラ製のブレーキシューと共に下廻りを引き締めています。シリンダーブロックのカバーはエッチング製ですが、実物もあっさりしているため良好な外観でした。
 テンダーはやはりエッチングでリベットや縁帯を表現した真鍮版プレスの半田組立です。台車枠は良好なドロップ製でスポーク車輪を取り付け、床上には浮き上がり防止のためのウェイトを載せていました。


(2008年5月 M.F)



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